東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)134号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願発明の構成及び第一引用例ないし第六引用例の記載内容を誤認し、かつ、本願発明の効果を看過した結果、本願発明と右各引用例記載の発明との対比に当たり、その構成及び作用効果についての認定判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて、第一引用例ないし第六引用例記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の叙上主張は理由がなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。
1 前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証中の図面及び第三号証(昭和五六年一二月七日付手続補正による全文訂正明細書)を総合すると、本願発明は、液中に比較的稀薄に溶存する燐酸イオンを高速かつ高度に除去する方法に関する発明であるところ、従来、下水の脱燐酸の方法として、含有する数PPm程度の燐酸にCa(OH)2を添加してPHを上昇させ、燐をCa―アパタイトと推定される化合物として沈降除去したり、あるいは第一鉄、第二鉄イオン、アルミニウムイオンなどを添加して凝集沈殿させるか、砂濾過によつて燐酸を除去することが行われているが、このような従来の稀薄イオン含有液の脱イオン処理における単なる薬注、混合、凝沈及び(又は)砂濾過によつては除去効率が極めて悪いという欠点がみられたことから、本願発明は、上記従来法の欠点を排除し、特別に別途整粒された接触粒子と被処理液を接触させつつ生殿剤の注入によつて、液中に稀薄に含有される燐酸イオンを高速かつ高度に完全に除去することを可能とし、あわせて使用薬品量をも最少たらしめることを目的とし、本願発明の要旨(本願発明の明細書の特許請求の範囲の項の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したものであり、本願発明において使用する生殿剤としては、Ca(OH)2,NaOHなどのようなアルカリ剤を使用し、また、接触粒子としては、例えば天然鉱石を適当な粒径にそろえて利用しても、被処理液中の除去しようとする燐酸イオンと同種又は同系種のイオンから別途生殿し、これを造粒したもの、より詳しくは、天然の燐鉱石、燐灰石、骨炭などのCa―アパタイトを主成分とする物質、人工的なCa―アパタイトの造粒体(Ca10 (PO4)6・X2,ただしXはCl,F,OH,SO4)、ブルシアイト石(CaHPO4・2H2O)などの燐酸化合物粒体や上記のようにイオン交換樹脂から調製されたものを生殿剤とともに利用することによつて実効をあげることができること、本願発明が接触粒子を充填層という形態で用いるという構成を採用した理由は、燐酸イオンが生殿剤の添加によつて生殿する不溶性燐酸化合物の接触粒子への挙動は、生殿時の系内条件によつて大きく異なり、特定範囲内に条件を保持すれば接触粒子が流動していても多くの沈殿は該粒子を核としてその表面に晶析するが、実際操業においては前記系内条件の制御が困難で、大幅な変動があつて接触粒子表面への晶析を期待できず、微細な不溶性燐酸化合物が生殿することが多く、したがつて、このような性質を有する燐酸イオン処理に当たつては、接触粒子を固定した充填層となして処理することが、処理水清澄化の必要条件であるとの知見に基づくもので、本願発明においては、接触粒子との反応は、接触粒子を充填層として接触させるもので、かくて接触反応と液の清澄化を同時に遂行し得る効果を奏するものであること、更に、本願発明においては、充填層において反応を終了した液は、充填層の粒径選定によつてはそのまま、不適当なPH範囲の場合は中和薬品を添加して放流可能であるが、充填層の粒径選定に当たつてかなり粗なる接触粒子を使用するときには、更に濾過器に送給して処理液中に残存する懸濁物質の除去を必要とし、場合によりその際に助剤を注入することもあり、充填層の接触粒子として細かいものを使用すれば、懸濁物質はほとんど捕捉され、当然のことながら濾過器による濾過が不要となること、及び充填層における通液速度は、通常七~五〇m/hrであること、次いで、実施例の説明として、「Pとして三PPm含有する燐酸含有液に一〇%のCa(OH2)2スラリを添加してPH一一・〇~一一・五とし、これを四〇〇~八〇〇μに調整した燐灰石を六〇cmの層高に充填した充填層に七m/hrの線速度で通液したところ、溶存Pとして〇・〇六PPm処理液を得た。」(第七頁第二〇行ないし第八頁第五行)こと等の記載があることが認められる。
以上認定の事実によると、本願発明は、燐酸イオンを含有する被処理水に生殿剤、すなわちCa(OH),NaOHを添加して、被処理水をヒドロキシアパタイトを溶存する過飽和状態とし、この処理水を燐酸イオンと生殿剤とによつて生成される沈殿と同種又は同系種の接触粒子、例えば燐灰石、燐鉱石、骨炭などの整粒された接触粒子を物理的に接触させることによつて過飽和状態を破り、接触粒子上にヒドロキシアパタイト不溶物を晶析させるとともに、ヒドロキシアパタイトの多核発生が起こつた場合にも、これを除去することができるように接触粒子を充填層として用いることにしたものであることを認めることができる。
2 他方、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例は、発明の名称を「高純度塩水精製利用法」とする発明の公開特許公報であるところ、その特許請求の範囲の項には、「洗浄済原料塩を溶解して得られた塩水に沈殿生成剤を添加して石灰石粒子、大理石粒子、方解石粒子、アラレ石粒子、ヒヨウシユウ石粒子、珪石粒子、砂、ブルース石粒子、蛇紋岩粒子、緑泥石粒子より選ばれた一つまたは複数の組合せよりなる粒子と接触反応させたのち濾過して高純度塩水を得る一方、原料塩を洗浄して得られた洗浄後水に沈殿生成剤を添加して生成した沈殿を分離して精製塩水とし、この精製塩水を原料塩の洗浄もしくは溶解用媒液と共にあるいは前記洗浄済原料塩を溶解して得られた塩水と共に利用することを特徴とする高純度塩水精製利用法。」との記載があり、その発明の詳細な説明の項には、発明の目的について、「本発明は、洗浄済原料塩を溶解して得られた塩水中の反応の困難な希薄金属イオンを極めて高速に簡単かつ経済的に除去し、さらに原料塩の洗浄後水中の多量の金属イオンを除去して高純度に精製し、両者の有効利用をはかることを目的とするものである。」(第二頁左上欄第一六行ないし右上欄第一行)との記載が、実施態様の説明として、「この塩水(2)は接触反応装置(B)に導かれるが、その導入途中または装置(B)内で、NaOH9Na2CO3液等の沈殿生成剤(4)を添加する。接触反応装置(B)において、塩水(2)は沈殿生成剤と共に石灰石粒子、珪石粒子、砂、ブルース石粒子、大理石粒子、方解石粒子、アラレ石粒子、ヒヨウシユウ石粒子、蛇紋岩粒子、緑泥石粒子より選ばれた一つまたは複数の組合せよりなる接触粒子と接触させられることによつて極めて短時間でCaとして一~二mg/l、Mgとして一~二mg/lの高純度塩水となり、しかも生成する沈殿の殆んどは接触粒子表面に析出付着したり、また析出量も僅かであるために沈降その他の分離操作を費せず、そのまま濾過装置(C)へ導いて高速濾過を行なうことができる。」(第三頁左上欄第四行ないし第一六行及び第七頁右欄第四行ないし第一〇行の訂正部分)、「使用する接触粒子の大きさは、微細なもの程良好であるが、余り微細であると充填層の場合圧損失が大きく、流動層、攪拌槽の場合にはキヤリオーバーする接触粒子量が多くなり、また粒子が大きいと接触表面積が小となり長い滞留時間を要するから、およそ二〇〇~三五、〇〇〇μ程度のものがよく、好ましくは四〇〇~一〇、〇〇〇μのものがよい。」(第三頁右上欄第二行ないし第九行)、「本発明において使用する接触粒子としては、主にCa除去しようとする際には石灰石をはじめ大理石、方解石、アラレ石、ヒヨウシユウ石等の粒子を使用し、また、Mgを除去しようとする際にはブルース石をはじめ蛇紋岩、緑泥石等の粒子を使用するとよい。」(第七頁右上欄第一二行ないし第一七行)、「接触反応の手段としては一般の攪拌羽根付の反応槽、旋回流式攪拌槽、充填層、あるいは流動層を用いてもよい。」(第三頁左上欄第一九行ないし右上欄第一行)との各記載があり、実施例2の説明として、「実施例1と全く同一の洗浄溶解装置を用いてCaとして一四~一五mg/l、Mgとして一二~一三mg/l、Nacl三〇五~三一〇mg/l、Nacl三〇五~三一〇mg/l、濁度一〇程度、温度六二~六三℃の飽和食塩水を得た。この塩水にNaOH,Na2CO3液を注入し、一、〇〇〇~二、八三〇μの蛇紋岩粒子を充填した充填層を流速一三m/h」で通過させたところ、「Caとして七~八mg/l、Mgとして〇・二~〇・四mg/lの処理水が連続的に得られ、Caの分離効率は四〇~五〇%であり、Mgのそれは九七~九八%であつた。」(第七頁左下欄第八行ないし右下欄第五行)との記載、実施例3の説明として、CaとMgの分離効率をあげるために大理石と蛇紋岩の複層式充填層を形成させて行なつた。すなわち、実施例2の蛇紋岩粒子充填層の代りに一、〇〇〇~二、八三〇μの大理石粒子と同じ粒径範囲の蛇紋岩粒子を1:1に充填して複層とし、流速一三m/hで通水した。……この結果、Caとして〇・五~〇・七mg/l、Mgとして〇・四~〇・七mg\lの処理水が連続的に得られた。Caの分離効率は九五~九七%、Mgのそれは九四~九七%であつた。」(第七頁右下欄第一〇行ないし第八頁左上欄第四行)との記載があることを認めることができるところ、塩水中のカルシウムを除去しようとする際に接触粒子として用いられる石灰石、大理石、方解石、アラレ石、ヒヨウシユウ石がいずれも炭酸カルシウムを主成分とする鉱石であり、マグネシウムを除去しようとする際に接触粒子として用いられるブルース石、蛇紋岩、緑泥石がマグネシウム化合物を主成分として含有する鉱石であることは当裁判所に顕著な事実であるから、右接触粒子が塩水中のカルシウム、マグネシウムと沈殿生成剤とで生ずる沈殿と同種又は同系種の化合物を含有するものであることは容易に看取することができる。そして、前認定のとおり、蛇紋岩粒子を充填層に用いる実施例2の場合にカルシウムの分離効率は四〇%ないし五〇%と低いが、マグネシウムのそれは九七%ないし九八%と高く、また、蛇紋岩粒子充填層の代りに、大理石粒子と蛇紋岩粒子との複層式充填層を用いる実施例3の場合にカルシウムの分離効率が九五%ないし九七%(マグネシウムのそれは九四%ないし九七%)と高くなることを合わせ考えると、第一引用例には、本願発明が除去対象とする燐酸イオンではなく、主としてカルシウムイオン、マグネシウムイオンについてではあるが、稀薄なイオン含有液を接触粒子の共存下に接触反応させて含有するイオンを除去するに際し、イオン含有液と該イオンを除去し得る生殿剤(沈殿生成剤)とを、該イオンと該生殿剤とから生成される沈殿と同種又は同系種の化合物を含有する接触粒子を充填した充填層に通液して反応させ、該イオンを該接触粒子表面に沈析させ、もつて、該イオンを除去する方法が開示されているものとみるべきである。原告は、第一引用例には、被処理液を除去対象イオンと生殿剤とから生成される沈殿と同種又は同系種化合物からなる接触粒子の充填層に通液する旨記載されていない旨主張するが、原告の右主張は、前認定の事実に照らし、採用することができない。もつとも、第一引用例の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項には、前認定のとおり、反応により生成する沈殿物とは異種類のものである珪砂あるいは砂をも接触粒子として用い得ることが記載され、また、前掲甲第四号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明の項の実施例1には、マグネシウム化合物とは全く異種の化合物である石灰石粒子の存在下でMg+2を除いた例が示されていることが認められるものの、前認定の「接触粒子としては、主にCaを除去しようとする際には石灰石をはじめ大理石、方解石、アラレ石、ヒヨウシユウ石等の粒子を使用し、またMgを除去しようとする際にはブルース石をはじめ蛇紋岩、緑泥石等の粒子を使用するとよい。」との記載に続いて、「また珪石粒子はCaの除去においては石灰石等より効果的ではないが、除去能力を有する。」(第七頁右上欄第一七行ないし第一九行)とカルシウムイオンの除去においてカルシウム化合物とは全く異種の化合物である珪石粒子は、カルシウム化合物である石灰石等より除去能力が劣る旨の記載があり、更に、実施例1には、「この飽和塩水はCaとして一〇~二〇mg/l、Mgとして三~七mg/l、Nacl三〇五~三一〇g/l、濁度五~一〇度程度で、この塩水を滞留時間七分とし、一、〇〇〇~二、八三〇μの石灰石粒子九・〇kgを懸垂させた攪拌反応槽に導入し、四四・四g/lのNaOH溶液を一・六九l/h、一〇四・四g/lのNa2CO3液を一・四六l/h同時に注入し七分間接触反応させたのちCaとして一・五mg/l、Mgとして〇・八mg/lの懸濁液を得、……重力式二重式濾過装置によつて濁度一度以下の清澄塩水を得、これを……電解装置へ送つた。」(第四頁右上欄第一九行ないし左下欄第一二行)との記載に続いて、「平均粒径〇・八mmの珪砂を用いても接触反応時間七分でCaとして六・五mg/l、Mgとして一・二mg/lとなり十分に利用できることが実証された。」(第四頁右下欄第一八行ないし第五頁左上欄第一行)と記載されていることが認められ、これらの記載からすれば、反応により生成する沈殿物とは異種類のものである珪砂あるいは砂を接触粒子として用いることにより、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを、また、石灰石粒子を接触粒子として用いることにより、マグネシウムイオンを除去することができることが認められ、本願発明における除去対象イオンである燐酸イオンの方が、第一引用例における除去対象イオンであるカルシウムイオンやマグネシウムイオンに比べ、接触粒子として選択性が高いとはいえるが、前認定の記載からすれば、カルシウムイオンの除去に際しては、珪砂は石灰石より除去能力が劣り、また、石灰石粒子を接触粒子として用いた場合には、カルシウムイオンの方がマグネシウムイオンよりも多く除去されるというのであるから、カルシウムイオンの除去には、接触粒子としてカルシウムを含む化合物の粒子を用いた方がより効果的であること、及びマグネシウムイオンの除去には、接触粒子としてマグネシウムを含む化合物の粒子を用いた方がより効果的であることが開示されていることに変りはない。更に、第一引用例には、接触反応の手段として、前認定のとおり充填層を用いるほか、種々の手段を用いてもよい旨が記載されているが、第一引用例に掲げられている実施例三例のうちの二例(実施例2及び3)までが、接触粒子を充填層として用いる接触手段を採用している例であつて、第一引用例に接触粒子を充填層として用いることが記載されていることは明らかである。
3 叙上認定したところにより、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比すると、両者は、除去対象イオン含有液と該イオンを除去し得る沈殿生成剤(生殿剤)とを、該イオンと該生殿剤とから生成される沈殿と同種又は同系種の化合物を含有する接触粒子を充填した充填層に通液させることにより、該除去対象イオンを接触粒子表面に析出させ、もつて、通液接触処理後の液中の除去対象イオンを減少させる方法という点で同じであるが、本願発明の除去対象イオンが燐酸イオンであるのに対し、第一引用例のそれはカルシウムイオン、マグネシウムイオンである点で相違していることは明らかである。よつて、右相違点に関し、第一引用例が開示するカルシウムイオン、マグネシウムイオンの除去方法を燐酸イオンの除去に用いることが当業者にとつて容易であるか否かについて検討するに、成立に争いのない甲第八号証(第五引用例)によれば、第五引用例は、アメリカ合衆国内務省発行に係るPBレポート第一九〇一七〇号であり、それには、<1>生成した燐酸カルシウムの沈殿物は、生成条件、例えば温度、pH溶液のCa/P比及び他の未知因子に左右されて、その組成物が変わるが、オルソ燐酸カルシウムの沈殿物は、ヒドロキシアパタイトの基本構造を有し、通常Ca/10(OH)2(PO4)6と考えられていること(第五頁第一二行ないし第一六行)、<2>ある溶液が特定の沈殿せんとする物質に関して過飽和状態になつていれば、この過飽和度は、(a)既に生成した沈殿粒子の表面に沈殿を生成させる、すなわち析出させるか、(b)自発的多核発生、つまり多くの微細結晶核の多発によるか、のいずれか一つで破ることができること、<3>自発的多核発生の現象が起こると、数多くの微細な沈殿(コロイド状沈殿)が存在することになり、その沈殿は沈降し難く、また、濾過性も悪いので望ましくないこと、<4>一般的に、沈殿プロセスの反応速度は、過飽和度合と晶析に使われる接触粒子の表面積とに比例すること、<5>多核発生を最小限にとどめつつ、できる限り急速に沈殿反応を進行させることは、流入被処理水に石灰が添加される反応室に、予め生成された比較的高濃度の沈殿物を循環させることによつて達成されること、<6>新しい沈殿生成のための大きな結晶核表面積が与えられると、晶析速度は速くなるとともに、自発的多核発生の傾向を低減させることができる、ということが記載されていることが認められ、右記載によれば、第五引用例には、燐酸イオンを含む被処理水に生殿剤である石灰を添加して反応させるに際し、予め生成された沈殿物、すなわちCa―アパタイトを存在させると、反応沈殿物は自発的多核発生が減少し、Ca―アパタイトの表面に析出する現象を示すこと、すなわち、燐酸イオン含有液においても、これに生殿剤を加え、その際に燐酸イオンと生殿剤とから生成される沈殿物(Ca―アパタイト)を存在させると、反応沈殿物は該沈殿物の表面に析出することが開示されているということができる。そうであるとすれば、上記認定の事実に前認定のとおり、第一引用例に、除去対象イオンであるカルシウムイオン、マグネシウムイオンを含有する液に生殿剤を添加し、該イオンと生殿剤とから生成される沈殿と同種又は同系種の化合物を含有する接触粒子と接触反応させるに当たり、被処理液を接触粒子を用いた充填層に通液させる方法(実施例2及び実施例3)が開示されていることを総合するとCa―アパタイト粒子の充填層に燐酸イオンを含む被処理水を生殿剤である石灰を添加して通水し、燐酸イオンの除去をはかることは当業者にとつて格別困難なことと認めることはできない。
原告は、本願発明は、第一引用例記載の発明とは技術分野を異にする旨主張するが、前認定のとおり、いずれも稀薄なイオン含有液から該イオンを除去する技術という点では共通しており、また、本願発明は、排水中の燐酸イオンの除去のみにその適用が限定されるものではないのみか、排水中の燐酸イオンを除去すること自体は第五引用例にみるように知られていることであつて、原告の右主張は、採用できない。また、原告は、本願発明においては、燐酸イオンと生殿剤との反応と、該反応物の分離とを同時に行い得るもので、第一引用例と異なり濾過処理を必要とせず、このように除去対象イオンと生殿剤との反応及び該反応物の分離とを同時に行うことは第一引用例の記載からは全く予想し得ないものである旨主張する。なるほど、前認定のとおり、第一引用例の特許請求の範囲には、接触反応させた後濾過することが記載され、また、実施例1においても、Ca、Mgを含む飽和食塩水を接触粒子である石灰石粒子を懸垂させた攪拌反応槽に導入し、生殿剤を注入した後濾過している例が記載されているが、第一引用例には、前認定のとおり、稀薄なイオン含有液を接触粒子の共存下に接触反応させて含有するイオンを除去するに際し、イオン含有液と該イオンを除去し得る生殿剤(沈殿生成剤)とを、該イオンと該生殿剤とから生成される沈殿と同種又は同系種の化合物を含有する接触粒子を充填した充填層に通液して反応させ、該イオンを該接触粒子表面に沈析させ、もつて該イオンを除去する方法が開示されており、しかも、「生成する沈殿の殆どは接触粒子表面に析出したり、また析出量も僅かであるため沈降その他の分離操作を費せず、そのまま濾過装置へ導いて高速濾過を行うことができる。」(第三頁左上欄第一二行ないし第一六行)との記載があり、また、実施例2及び3には、前認定のとおり、Ca、Mgを含む飽和食塩水を蛇紋岩粒子を充填した充填層又は大理石粒子と蛇紋岩粒子とを充填した複層式充填層に、流速一三m/hで実質的滞留時間五分で通水したところ、Ca、Mgの減少した処理水が連続的に得られたことが記載されているのであつて、これらの記載からみると、第一引用例には、除去対象イオンと生殿剤とを接触粒子の存在下で反応させると、生成する沈殿のほとんどが接触粒子表面に析出すること、接触粒子を充填層として用いると、充填層内を通すのみで除去対象イオンの減少が行えること、すなわち除去対象イオンと生殿剤との反応と該反応物の分離とを同時に行うことができることが開示されているものということができる。したがつて、原告の右主張は、採用する由ない。更に、原告は、本願発明においては、被処理水に生殿剤を混入し、充填層に通水するだけで、濾過を行わなくても、極めて有効に燐酸イオンを除去しうる顕著な作用効果を奏し得る旨主張する。しかし、本願発明において接触粒子との反応は、接触粒子を充填層として接触させるもので、これにより接触反応と液の清澄化を同時に行う効果を奏し得るものであることは、前認定のとおりであるところ、右にいう液の清澄化とは、燐酸イオンと生殿剤との反応により発生した接触粒子に析出しない微細な不溶性燐酸化合物をも捕捉することによつて、液中から燐酸イオンをできるかぎり取り除くということを意味するものと解されるところ、右効果は充填層が反応装置と同時に濾過装置としても機能することによつて生ずる効果そのものであつて、本願発明に特有の効果ということはできない。(なお、このことは、前認定の本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項中の本願発明が充填層を採用した理由についての記載及び粒径の粗い(大きい)接触粒子を用いた場合には、生殿剤を混入した液と接触粒子との反応後においては、不溶性燐酸化合物を取り除くために濾過を必要とするが、細かい(小さい)接触粒子を用いた場合には、濾過の必要がない旨の記載からも明らかである。)。のみならず、前掲甲第三号証によれば、本願発明の実施例における燐酸イオンの分離率(除去率)は、九八%(<省略>)であることが認められるところ、前認定のとおり、第一引用例においても、その実施例3において、カルシウムの分離率は九五%ないし九七%、マグネシウムの分離率は九四%ないし九八%であり、また、前掲甲第八号証によると、第五引用例の方法においても、表一の最初の例では、燐の分離率は、処理で約九四%(<省略>)、濾過後は約九九%(<省略>)であることが認められることに徴すれば、本願発明の分離率をもつて格別顕著なものということはできない。したがつて、本願発明の効果が顕著であるとする原告の主張も、採用する限りでない。
4 叙上認定説示したとおりであるとすれば、本願発明は、第一引用例及び第五引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとみるのを相当とするから、その余の点を判断するまでもなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
稀薄な燐酸イオン含有液を接触粒子の共存下に接触反応させて含有する燐酸イオンを除去するに際し、該イオン含有液と該イオンを除去しうる生殿剤とを、該イオン該生殿剤とから生成される沈殿と同種または同系種の化合物を含有する接触粒子を充填した充填層に通液して反応させることを特徴とする稀薄に燐酸を含有する液の処理法。